米原万里

食べることも生きることも何と残酷で罪深いことなのだろう。殺生の罪悪感と美味しいものを食べたい強烈な欲望、その矛盾をまるごと引き受けていくということが、大人になることなのだろうか。今でも肉料理や卵料理を前にすると、ほんの一瞬だが、ヒヨコたちや獣たちの姿が目前をよぎる。みな、悲しそうな目をしている。なのに、次の瞬間にはムシャムシャと美味しく食べている自分が、ときどき怖くなる。もっと心優しく意志の強い人々はベジタリアンになるのだろう。ヒトラーもベジタリアンだった。